自分ひとりの力では、何も変えられない?

毎日を暮らしていれば、嫌なことも、辛いことも、不便なこともある。
そんなとき、何を言っても、何をしても、しょせんは変わらない、と諦める。
政治で変えろなんていっても、ひとりぼっちで投票所に一票だけを入れても、何ひとつ変わらない。

そうして、毎日の嫌なこと、辛いこと、不便なことを些細なものとして片づけていく。
そんな「小さな暴力」のなかで暮らしている。
それを世間は「我慢する」と呼ぶ。

「小さな暴力」が、見過ごされるのはなぜだろう。
「これくらいは仕方がない」と思わされる仕組みが、社会にはある。
声を上げること自体が「わがまま」や「迷惑」として扱われると思うから、我慢をする。
それが積み重なったとき、わたしたちは暴力を暴力として感じる感覚すら、奪われていく。

たしかに自分ひとりだけでは嫌なこと、辛いこと、不便なことは変わらない。
そんなときに必要なのは、志を同じくする「仲間」。
ハーバード大の政治学者、エリカ・チェノウェスは、20世紀の古今東西の運動をつぶさに分析して、人口の3.5%が動けば物事は必ず変えることができる、と言う。
これを彼女は「3.5%ルール」と呼ぶ。

でもただ、たんに人が集まればいいというわけじゃない。
何が問題の原因で、どうすれば解決できるのか、どのように問題を知ってもらうのか――そんなことを、時間をかけて仲間どうしで協力することがカギだと説く。
それはSNS上のやりとりだけではできない。
リアルな仲間が必要になる。
そして、小さな仲間がつながり、やがて大きな仲間となる。

人口のたった3.5%。
100人の会社なら3人以上。
1000人の村なら35人。
1万人の街なら350人以上。
100万人の大都市でもたったの3.5万人。

仲間をつくるといっても、最初から大きな集まりをつくる必要はない。
いま思っている違和感を、誰かひとりに話してみる。
同じ場所で悩んでいる誰かの声に、耳を傾けてみる。
そんな小さな対話から、つながりははじまる。

「小さな暴力」を我慢しているのは、あなただけであるはずがない。
明日から、今日から、仲間をつくろう。
そして、仲間で変えていこう。
そのとき、あなたは世界を変える力をすでにもっている。

執筆:吉田徹(比較政治学)